真夏の夜、蒸し暑い空の下、見上げると真ん丸い月がぽっかりと浮かんでいて。
「そうだ、コンビニ行こう」
「なんで京都行くノリなんすか……」
隣の降旗が呆れたように笑う。その拍子に、恐らく無意識ではあろうが、慎ましく繋いだ降旗の手に少しだけ力が入る。夏場の人肌は特別そうは感じなくともやっぱり熱い。彼らの気持ちとは裏腹に汗で湿った手は滑りやすく、ともすればすぐに離れそうになる。だから、たとえそれが無意識であろうと、僅かに力の込められたこの手のひらほど幸福なものはないと木吉は感じた。笑う降旗は何のこともなさそうにこちらを見ていて、そんなことを考えているのは自分だけだと知るのだけれど。
付き合ってまだ一ヶ月ほど。最初の頃は木吉の一挙一動に過剰反応しては彼を笑わせた降旗も、この一ヶ月で変わっている。良くも悪くも、木吉に影響されてきたというか、振り回されっぱなしだった彼も徐々に自分の地、というか、遠慮をすることがなくなった、というか。
たとえば今のツッコミとか。自分からさり気なく差し出した手のひらとか。そういうものたちはきっと、一ヶ月前からは想像もできなかったものたちだ。
「しょうがないだろ、何か月が美味そうに見えたんだから」
口を尖らせると降旗が吹き出した。
「あーたしかに。なんか、アレみたいですね。カントクの、」
「ああ、まるごとレモン?」
二人顔を見合わせて、笑う。すっかり汗で湿った手のひらが強く、今度ははっきりとした意図を持って木吉の手を握る。察して屈むと、軽いキス。
「…これだけが不満なんすよね」
降旗が苦笑して、木吉を見上げる。その顔の悪戯っぽさとは対称に、口調は真面目そのもので、木吉を不思議な気分にさせる。安心するような、少し不穏なような。自分の体格からして、追い越されるようなことも早々ないとは思っているが、恋人のこんな顔を見たら誰しも同じ気持ちになるんじゃないかと思う。
「じゃー降旗にはセンパイが牛乳を奢ってやろう」
「え、俺ファンタがいいっす!」
「奢ってもらうことは確定事項かよ!」
レモン色のスポットライトの中、彼らは笑う。そうだ、コンビニのあとにうちに誘ってみよう。木吉はふと考える。そして、降旗もまた。
夜はまだ、始まったばかり。
レモンイエローの恋をしましたのちオレンジから目も眩むほどの赤に染まるでしょうお題は魁さんが考えてくれたものです。降旗×木吉は私のイチオシCPです…もっと増えろ!><
お粗末さまでした!
[6回]
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