※社会人パラレル。
今吉は笠松が気に食わないのだという。本人を目の前にしゃあしゃあとこの言葉を吐かれたその日、笠松にショックや不安などは毛頭もなく、むしろ呆ればかりが心の中を占めた。「じゃあ何で付き合ってるんだよ」と訊いたら「気に食わんけど嫌いやないからやん」と当たり前のように返される。彼は唇を尖らせて笠松の淹れたコーヒーを飲んだ。
「熱いし甘いし濃すぎやわぁ、40点」
気に食わない、と笠松は思った。この瞬間、奇しくもふたりは同じ感情で繋がっていたわけだ。
今吉には存外子供らしいところがある。それを本人に云うと、例の「気に食わない」発言が飛び出すので、笠松がそれを口にすることは滅多にないが。
「何食うー?」
「何でもええわ~なんか適当に頼むわ」
「一番やりづれえよ」
今吉は本来なんでもそつなくこなす小器用なタイプの人間のはずだったのだが、どうも笠松と同居し始めてからというもの味を占めたらしく、滅多にキッチンには立たなくなった。彼曰く、「だって自分で作った飯より人の作った飯のが美味いやん」。そのくせにちょくちょく「甘すぎ」「なんか飯がやわい」と姑のような文句を零しながら、笠松と飯を食べる。文句を云いつつ基本的に食事を残すことは、まずない。幸か不幸か、笠松はそういった面倒くさい人間の扱いには人より慣れていたので、特に怒ることもなく今吉のその悪癖を受け入れてしまい、今に至る。
「わはは、精々ワシのために美味い飯作ってくれや」
今やすっかり大きな子供と化した今吉は悪戯が成功した子供のように舌を出す。
(そういうとこが子供っぽいっつってんだよ)
大の大人がべーとか云ってもかわいいわけねーだろ。
まったくもって気に食わない。一度触れ合えばその舌は途端に大人で男であることを主張するというのに。その舌を見るだけで、笠松は、彼に触れたいと、感じてしまうのに。
――そんなに気安く見せ付けてんじゃねーよ。
「気に食わねえ」
「あ?」
「何も」
笠松は今吉が気に食わないのだという。今吉が言った言葉に対抗するように吐かれた言葉はどうやらただの反撃でもなかったらしくある程度本気だったようだ。彼と自分が同じ感情を持っている。それはなんだかとても不思議で、むず痒い感覚だった。今吉は彼が気に食わない。彼は今吉が気に食わない。それでもお互い好き合って、ひとつ屋根の下で暮らしている。
(気に食わん、けど、)
悪くはない。小さく舌を出すと、笠松がぼそりと何かを云った。聞き取れなかったけれど、どうせ碌なことではないのだろう。今吉はごろりとカーペットに寝転んだ。
(何でも適当なモン作って早よ構えや)
やっぱり気に食わない。自分以外のものを見ている彼、なんて。
「…あー腹減ったわぁ~」
「今作ってんだろ!」
同じ感情を共有するふたりは、奇しくも似た者同士で、生憎素直ではなかった。
あかんべー
お互いを出し抜きたいふたり。すでに出し抜いてることには気づいてないふたり。意外と子供なふたりの意地の張り合いにどうしようもなくもえます。むしろこれが初・笠今ということにびっくりしています笑
タイトルは神ちゃんから!シチュエーションかな?とも思ったけどあえてそのままタイトルにしました。
[2回]
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