『浮いてるっちゃ浮いてるけど、別にハブられてるワケじゃないんすよねー。なんつーか、一匹狼?みたいな?……っつーか大坪さん心配してるんですか?ホントお父さんみてえ!』
来る日も来る日も、図書室でひとり、可愛く頼りになるがそれなりに個性的で誤解をされやすいタイプであろう後輩が黙々と本を読む姿を見たら、誰だって心配になるものではないのだろうか?目の前で失礼にもゲラゲラ笑う高尾の姿を腹立たしいような安心したような複雑な心境で見ている俺である。それにしても今の話のどこに目に涙を浮かべるほど爆笑できる要素があったのだろうか。緑間もそうだが、高尾も緑間とはまた違った意味で、大変個性的な男だ。うちの後輩はモンスターばかりかと主将として頭を抱えることも多い。
今日も今日とて図書室に足を運ぶと、やはり窓際の一番奥でひとり黙々と本を読む緑間の姿がある。当たり前のようにそこに座って(事実、当たり前に毎日その席にいるのだが)、昨今の群れる高校生の習性を知らぬかのようにひとり、綺麗な姿勢で、切れ長のその目で、文字の羅列を追っている姿は、遠くから黙ってみていれば画になるものだ。
俺は適当な書架から適当な本を適当に取って適当なページを開き、緑間の隣の席に座った。俺の知っている限り、この席に人が座っていたことはなかったが、緑間は俺に気付いた様子さえなく活字を追い続ける。ちらりと覗き見ると、教科書に出てきそうな堅苦しい文体が目に入った。どんな本かも分からないが、とりあえず俺には魅力が理解できない本だということは分かった。昔から活字はそんなに得意ではない。嫌いでもないのだが、紙に印刷された文字を読むことより、身体を動かすほうが遥かに好きだ。
それにしても緑間の集中力には驚くものがある。片時も本から目を離さず瞬きも惜しむかのようにレンズ越しの目が上から下へと動くのだ。まるで機械のように文字を捕まえ自分の中に取り込む作業は存外に見ていて面白いものだ。
「……なんですか、主将」
「気付いてたんならまず挨拶だろう」
「……どうも」
……何の前触れもなく緑間の口が開いた。決して文面から目を離さず、口だけが動く。図書室という場所とこの距離感のせいだろうか、若干掠れた小声だった。
「よくそんなにハマって読めるモンだな」
「まあ、」
感心したことを素直に言っただけだが、見事に反応が薄い。人によってはかなり失礼で誤解される場面だが、生憎、これは緑間にしてはかわいいほうの無礼なので許容してしまう。
(こうやって甘やかすのがいけないのかもしれない)
ぼんやり考える。
機械のように文字だけを追う緑間と、その緑間をただ見ているだけの俺。なんという時間の浪費だろう。机の下の、長い足を絡めても何の抵抗もない。
(…へんなやつだよなぁ、俺も、こいつも)
モンスターばっかりだ、どいつもこいつも。
いずれ人間になるであろうモラトリアムはきっとまだ長い。
ピーターパン・シンドローム
(まるで時間が止まったみたいな世界ね)
タイトルは魁さんから!
大坪さんが掴めず苦戦するも緑間受楽しすぎてどうしようかと思いました。美人受!美人受!!本と真ちゃんってなんかストイックでお似合いでいいですよね!これを書いてる途中、真ちゃんはイギリス純文学が好きだと良いな、という妄想をしました。イギリス純文学ってそんなに読んだことないけど。←
[3回]
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