ざあざあと大粒の雨がアスファルトに打ち付けられている。まるで空は地面に恋しているようだな、なんて無体なことを、今吉は思った。きっと恋しくて恋しくて、だから加減なんかできないくらい力いっぱいぶつかって砕けていくんだ。だから、雨音は何時だって泣いているんだ。
「いや、お前高三でそれはどうよ」
夢見がちな中学女子みたいなこと言ってんじゃねーよ。笠松は「げぇ」とでも言わんばかりな顔をしてこちらを見ている。まあ、確かに少し度を超してポエマーだったような気も、しなくもない。数瞬前を振り返って少し顔をしかめた。
「や、んー、ん。言いたかったんはそれやなくて…んん?」
「はっきり喋りやがれはっきり」「なんやよう掴めん……ん、ああそう、やからな」
「おう」
「俺らみたいやなぁ、て思うたわけデスよ」
「…………はぁ?」
「ちょ、えらい顔になっとんで」
けらけら、と軽やかに笑う声は雨に弾かれて反響しながら今吉達の足下に消えていった。ざあざあ。雨足は変わらない。
けたけたと笑い続ける今吉に何を感じたのか、笠松は少しだけ納得したような、それでいて気に入らないと言いたげな表情でもってこちらを見る。内心で肩をすくめながら、敢えて綺麗な笑顔を作るように、にっこりと笑った。
「な、ちゅーしたい」
「阿呆め」
「その阿呆に惚れとるんやろ」
「………」
「ん、んぅ」
ちゅ、と軽いリップ音。次いでぬらりと暖かい舌が唇の上を這った。雨の空気で冷やされた笠松の唇は存外冷たくて、唇を食む舌の熱さをより強く感じてしまう。鼻に抜けたような甘い声が出るのを、今吉は何時もどこか信じられないような心持ちで聴いていた。
甘く霞がかっていく脳みそで、今吉の思考は先程の問答に立ち返った。俺達はきっとコートの上で出会うのだ。それはいつか来るであろう確実な未来。そのときはきっと、俺達は互いを全力でもって潰そうとするだろう。確実な予感。
「ん、んン…っ、」
ずくずくに溶け出した理性に、今吉はあっさりと思考を放棄した。笠松の首に腕を回す。だって今この瞬間も、お互いに潰し合うその時も、ぜんぶぜんぶ―――――――
[5回]
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